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有機溶媒耐性

こんにちは。微生物研究の奥深さを日々感じる「飛び入り」です。

トランス型脂肪酸の話が出たので、別の角度からちょっと書いてみます。

トランス型脂肪酸は、今ではその摂取に対して厳しい目が向けられていますが、微生物の世界では防御機構の一つとして重要な役目を果たしています。

微生物が有機溶媒に曝されるとある閾値を超えた時点で死に至ります。有機溶媒は、細胞膜を溶かし構造的ダメージを与えそしてプロトンポンプを介したATP合成を不能とするからです。

そこで微生物は、細胞内に流れ込んできた溶媒をポンプを介して排出したり、細胞膜の脂肪酸に対してシス/トランス脂肪酸や飽和:不飽和脂肪酸の比率、そしてリン脂質の極性頭部を変えるといった防御機構を働かせることが知られています。

この細胞膜の変化は、構成脂肪酸の組成が植物型脂肪酸から動物型(様)脂肪酸への変換とも例えることが出来ます。飽和脂肪酸の多い動物由来の油は常温でも個体ですが、高度不飽和脂肪酸が多く含まれる植物性油は固まりません。つまり脂肪酸の融点を高めて細胞膜の流動性を下げその剛性を高めるのです。

この不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸様の融点特性をもたせるためは、シス型脂肪酸をトランス型脂肪酸に変換することで可能になります。不飽和脂肪酸の二重結合の立体配位がトランス型になることで飽和脂肪酸のような融点や流動性の変化を与えるからです。

この脂肪酸をシス型からトランス型へ変換する酵素として知られているのがシスートランスイソメラーゼ(CTI)です。グラム陰性細菌から同定されているこのタンパク質により細胞が有機溶媒に曝されると僅か5分で脂肪酸のシス型からトランス型への変換が確認されます。非常に早い反応です。

この酵素、微生物全てに存在する訳ではありません。多くは、gamma-proteobacteriaで見つかっておりdelta-proteobacteriaでもいくつか確認されています。このタンパク質は構成的に発現しているので、どのようにしてその活性が制御を受けているか興味が持たれているようです。活性のスイッチON/OFFを制御する分子機構が明らかになれば、細胞膜脂質がトランス型脂肪酸と飽和脂肪酸からなる細胞が構築できるのでしょうか。膜の流動性がとても低くなるはずなので、細胞の表現型にどのような特徴が現れるのか興味深いです。

CTI欠損株の研究から、この酵素だけで溶媒耐性能を全て説明できるわけではないようです。ただ、細胞が溶媒に曝された際の非常に早い反応性から、防御系を充分に働かせるまでの初期耐性を獲得するためにこの酵素が機能しているのかもしれません。

トランス型脂肪酸、微生物界では別の意味で生死に関わっているようです。


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